「健康通信」をふりかえって [肩こりをらくにするには] 2019/12/27



ひとりごと・健康通信 [肩こりをらくにするには] 2010年10月12日 

「暮らしの手帖」でいつも読んでいる・・専門医が質問に答える健康特集「肩こり」をめくりながら、はじめは・・何だ、肩こりか・・と、それほど関心が向かなかったのですが、昔、いつも縫いものをして私を育ててくれた母親の肩たたきをした、記憶を思い起こしながら読み始めると・・

これは、単なる「こり(凝り)」を超えた、体の中で起こっている目に見えない動きから、心のはたらきまで含めて・・私たちの日常の生活を見直し、健康・医療のあり方を問いかける・・そして、私たち誰の体にも受け継がれている・・自分自身の生命力・免疫系の意味を考えるきっかけになるようにも思われます。


腰痛とか、体力の減退を感じるとき、どうやら「長い時間ずっと座り続けて同じ姿勢でいることが、血液の循環を滞らせている」ということを、最近になって強く感じます。

立っているときより、座って固定しているのが、腰にとってよくないことは以前から聴いていましたので、いまはできるだけ気がついたときに足首を動かしたり、イスから立ってフクラハギを伸ばしたり、段差を利用して階段の上り下り動作をするようにしています。背骨や骨盤の固定が、筋肉の緊張と血行の悪化を招くのは想像に難くないことです。


それと、最近は腰痛などでも、あまり動かないで安静にし過ぎると、かえって血液の循環が悪くなって、回復を妨げるというように、医療の考えも変わってきたようです。
やはり私たち人間は動物なのですから、なにしろ動かないことには、植物人間(?)に近づくことになるのかもしれません。

ですから、家で座りっぱなしでいる生活が、体にも心にも固定化をもたらして、筋肉の緊張・固着や血液の停滞を招いていることは、むしろ歩いてみると感覚的に感じられるようになって、体の衰えの危機感が迫るようです。  

便利で楽な現代社会にどっぷりつかってしまうと、周囲も自分自身も見えなくなってしまうという危機感をたまに思い起こしたりしながら、健康情報には、いろいろ考えさせるものや疑問な点、そして個人個人によって異なるものもあるので、私たちは自分の体だけでなく心とも相談しながら、時として変わりゆくその状況や症状を自分自身で見て理解できるようになって、休息や心のありかた・状況などにも心を配って日々の生活を見直し、的確な判断で対応してゆくことが必要なようです。

私たちの生活に参考になると思われる要点を、「暮らしの手帖」から整理しながら書き移してみました。人間どう生きるか・・心と体の切っても切れない相互の関係について、これからも学んでいきたいので、私の得意(?)な「ひとりごと」として、また「健康通信」を書いてみたいと思います。

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[肩こりをらくにするには] 暮らしの手帖 1975春号  石田 肇  日本医科大学助教

―疲れたその日より翌日の方が肩はこる―

Q.「肩がこる」というのは、どういう状態が・・・

A.こる場所は、筋肉と、それを包んでいる「筋膜」が主体です。むくんだように、水気が多くなってかたくなっています。むくんでうっ血しているわけです。こりの痛みは、場所がはっきりしなくて、にぶくて、重苦しくて、何ともいやな感じがする、という特徴です。
この「こり」というのは、いろいろなことから起こってくる・・例えば、心臓病とか、何か内臓の重大な病気の一つの現われのこともあるし、まったく健康な方がただくたびれただけでも、そういう状態になる。だから実体が非常にとらえにくいんです。その上、世の中がこう複雑になってくると精神的な要素も入ってきますし。

Q.例えば、ストレスとか・・・

A.ええ、家庭内のトラブルとか、子どもの入学試験が心配になる、あるいは税金のシーズンになるとか、そういうストレスが、意外に筋肉のこりとなって現れることが多いわけです。
私の考えですが、人は体の調子が良いとか、悪いとかいうことを、筋肉という場所をかりて、自分にわからせている、と言っていいのではないかと思います。例えば、胃の調子が悪かったり、胆石があれば、背中の方がこるとか、心臓の調子が悪ければ、左の肩がこるとか、そういった体の調子、それから精神状態がどうかということを表現するものとして、筋肉のこりというのがあるのだと思います。

Q.すると、そういうときは、いくら筋肉をいじってもダメなわけですね。

A.そうです。実際の痛みを感じるところは、筋肉よりも、むしろ、それを包んでいる筋膜なのです。そのほか、筋肉を骨に結び付けている腱、あるいは、それを包んでいる腱鞘、それから、骨の表面の骨膜、そういったものも、そこに何か起こった場合には、こりとして感じていることがあります。
筋肉というのは、手術中に麻酔をせずに切られても、ちっとも痛くないんですよ。

Q.筋肉を切ってもですか。

A.ええ、針をさしても、メスで切っても、患者さんはあまり痛がらないんです。もともと痛みというのは、体に危険が近づいてきたときの一種の予告になるわけですが、刺すとか切るというのは、筋肉には普通あまりない刺激で、だからそういうものに対しては、あまり敏感ではないのです。
ところが、こむら返りとか、そういうときの痛みはものすごいでしょう。ああいうふうに、筋肉が窒息した状態でケイレンを起こすとか、うんと収縮するとかいう刺激に対しては敏感に感じるようにできているわけです。例えば、腕を縛って、曲げたり伸ばしたり動かしていると、腕がだんだんだるくなってきて、そのうちに、ちょうどこむら返りと同じような痛みがきて、ついには、もう手が動かなくなるのですね。
これと同じような状態を起こすものに、たばこを吸い過ぎて、血管のつまる病気があります。エノケンさんが足をおとした病気ですけれども、これは、100歩も歩くとふくらはぎがこってきて、歩けなくなるのです。これが、筋肉の痛みのいちばんの特徴ですけれども、酸素がいかない状態でムリに使いますと、筋肉にある状態が起こって、こった状態になり、それが進むと、もう痛くて歩けなくなる。そして、1・2分休んでいると、また回復して歩けるようになる。これを間歇性跛行(かんけつせいはこう)といいますけれども、そういうのが、筋肉の痛み、こった状態のひとつの典型的な状態です。

Q.その痛みは筋肉の中の神経が感じているわけですか。

A.いや、それは、やはり筋膜のほうがおもに痛むのです。筋膜を切るときは痛くて、筋肉になると痛くないんです。ヒフの上から、針をまっすぐに刺してみると、ヒフにはたいへん神経が多いから痛い、その下の皮下組織というのは、あまり痛くありません。それから、筋膜に達すると、重苦しい、ずうんとした痛みが感じられます。それを通り過ぎて筋肉にいくと、またあまり痛くなくなるんです。で、もっと奥にいって、骨膜にいきますと、また、たいへん痛くて、その先の骨になると、あまり痛くない。で、最後に骨髄になりますと、また痛くなるんです。
そういうふうに、筋膜というのは、体の中の痛みを感ずるひとつの層で、その痛みというのが、こむら返り、こりなどに、かなり影響しているわけです。というのは、どなたもご経験がありますように、こったりするのは、激しく運動した直後ではなくて、かえって翌日あたりにきますね。

Q.どうして時間がたってから痛んでくるのですか。

A.使った筋肉は、動かした直後よりも、時間がたつうちに、だんだんむくんで、ふくれてくるのです。ところが筋膜というのは、タイヤみたいに固くて、ほとんど、伸び縮みしません。だから筋肉は膨れられなくて、血の循環が悪くなるし、筋膜はパンパンに張って、刺激に敏感になる。それで翌日あたりに、こった感じが出てくるわけです。

―ひどくこると手足が動かなくなることも―
Q.その筋膜というのは、どういうはたらきをしているものですか。

A.筋膜というのは、一つの筋肉が曲げたり伸ばしたりするのではなくて、曲げる筋肉、伸ばす筋肉と、グループがあるんです。そういう働きの違うグループごとにまとめておきませんと、たいへん働きにくくなるわけです。
それから、力が働くためには、タイヤみたいに、ある程度固いワクを作っておいたほうがいいのですね。だから筋膜がタイヤで、筋肉の中はチューブというふうに、考えるといいでしょう。

Q.そうすると、電機のコードなんかで、何十本かの細い線をチューブに入れて、まとめているような、整理の役目をしている・・・

A.ええ、まあ、交通整理の意味もありますし、実際に働く上にも便利である。ところが、筋肉がその能力以上のことをやると、筋膜があるために筋肉がこるとか、逆にわざわいしてくるわけです。
最近、よく経験するのは、高校生や中学生が、サッカ-熱にうかされて、ものすごい練習をやったために、翌日から足がしびれたり、ものすごく痛んだりして、もう歩けなくなったという例にぶつかることです。
これは、前頚骨筋症候群という状態です。向うずねの筋肉が酷使されて、ふくらんでくる。ところが、固い筋膜があるために、ある程度以上はふくれられない。そのために、中にある神経や血管がひどい窒息を起こして、そのために動かなくなってしまうというわけなのです。こりの極限の状態ですね。
その窒息の話ですが、実際には我々の体には、適応現象というのがあって、収縮するときには酸素がなくてもいい。ただ、くたびれたのが、また元の状態にもどるのに、酸素が必要なのです。ですから、訓練して筋肉を発育させるとか、よく使えるようにするというのは、酸素のない状態でも筋肉がよく働くように、適応する力をつけるということです。
例えば、息を止めてみますと、はじめは30秒もたてば苦しいけれども、訓練すれば組織に充分に酸素をためておいて、海女さんのように長い間息を止めることもできるようになるのと同じで、筋肉も窒息の状態でも使えるようになるというのが、訓練のひとつの効果ですね。

Q.それで、運動でもはじめはへばるのが、だんだん慣れてくると平気になってくる・・・

A.そういうことです。ただそれには限界があって、その程度を超しますと、逆に今度はくたびれてきて能率が悪くなって、やせてしまうわけですね。太くなる間は、刺激が適当であった、ということなんです。

Q.筋肉は使いさえすればいいというものではないのですね。それとやっぱり、筋肉の若さといい増すか、その人の年よっても違うでしょうね。

A.それはもちろんですね。それに、普段活発な人と、いつも腰かけている人では、同じに論ずるわけにはいきません。ひとつご注意したいことは、昔スポーツをした人が年をとられたとき、筋肉は鍛えたまま残っているのに、腱の方が弱くなってしまっている。ですから、アキレス腱を切ったり、五十肩などの故障が他の人よりかえって早くきたりするということです。年をとってからも、ずっと訓練を続けれていればよかったものが、休んでしまいますと、なまじ若いときやっただけに、筋肉と腱とかその他のバランスがうまくいかなくて、見かけは一見丈夫そうですけれども、かえってもろくなっていることがあります。

Q.やっぱり年をとればとるで、少しずつ運動していないといけないわけですね。

A.いつも自分に合った適当な刺激を与えていると、精神的にも肉体的にも年をとらない、ということですね。第一線からしりぞいて、責任がなくなる、それから緊張がなくなる、人生の目的も失うということが、意外に筋肉の緊張などにも関係するんですね。
はりきっている人の筋肉は、やっぱりピッとしています。逆に、ストレスが強くて、しょっちゅう心配事がある、イライラしている、というと筋肉まで緊張して、肩がこってしまうわけですね。
病気というと、みんな医者が治すもの、クスリが治すもの、というような受身的なものだったのを、自分から何か働きかけてゆく・・・主体は自分であるという転換が、非常にいいことなんです。
それから、もうひとつは、いかにリラックスといいますか、楽な状態を自分でつくりあげるよう心がけることです。
ですから、普段心がけなければならないことは、訓練して強くするということばかりではなくて、むいしろ、いかにゆるめて、ゆったりするかという工夫が大事なわけです。眠っている8時間というのを、みなさん意外と無関心ですが、自分ではあまり問題だと思わないことが、意外と肩こりなどの原因になっていることもあります。


―好きなことはいくらやっても肩はこらぬ―
Q.人によって、肩がこったことがないという人がいるかと思うと、もう若いうちから、肩こりに悩まされる人もいますが、これはどういう違いでしょうか。

A.筋肉がこるというのは、ある程度自然現象なんです。私たちは、昔は手をついて、四つ足で歩いていたわけですけれど、それが二本足になって、首という細いところからぶらさげるようになってきている。それから、人類が発育するとともに、脳みそが大きくなって、重くなる。それから、五感、目だとか鼻だとか、口、耳、ぜんぶ頭にありますから、首というのは第五番目の手みたいに、しょっちゅう動かしていなければいけません。

Q.それでは、こるのもムリないですね。

A.ええ、しかし、普通の人は全体の体重のかけ方がうまくいっているために、あまり障害を起こさないですんでいるわけです。ところが、そういう人でもよく見ますと、筋肉のこった場所にひとつのしこりの点が出来ているわけです。これが、いわゆるお灸や、中国の麻酔のツボというところです。

Q.これは、漠然とした場所ではなくて、一つの点なのですね、

A.はい、はっきりとしております。これはもう、経験的に皆さんが、そこを押してもらうと、気持がいいということでお分かりと思います。で、苦しい人は、その点が、何らかの動機で刺激されるわけです。
例えば、冷たい風にあたったとか、横にあるテレビをしょっちゅう首を曲げて見ていた。あるいは、マージャンで何時間もかがんでいたとか、風邪を引いたとか、ビタミン不足のようなもの、あるいは、糖尿病をもっていたとか、そのほか精神的なことでも、その点が刺激されると、苦しみとして感じてくるわけですね。そういうものを引金機構と言いますが、それが、簡単に引かれるような人が苦しむわけです。
点をもっていても、引金がちっとも引かれない人は、ケロッとしているわけです。そして、その点は医者が調べると、誰でもちゃんともっているというわけです。同じように冷たい風にあたっても、引金を引かれやすい人と、引かれにくい人があるわけです。

Q.そうすると、その人がストレスに敏感な人かどうかということも関係するでしょうね。

A.ええ、大変に関係しますね。他の人がそばに来て、マッサージをしようとするだけでくすぐったくて、どうにもしようがないという人がいますね。こういう人は、普通の人より自律神経といいますか、自分の意志ではどうにもならないような神経が、非常に敏感な人ですね。
例えば、人の前に出ると顔が赤くなるとか、手のひらやわきの下に汗をかいてしまう。動悸がしてどんどん脈が速くなるとか、あるいは、手がふるえて止めようと思っても止まらない・・・そういう調子が人によってずいぶん違いますね。それから、精神的にも非常にお天気やで、いいときと悪いときとゆれ動く,というようなことが、全部関係してくるわけです。

Q.そういう人はこりやすいわけですか。

A.はい、引金をつくりやすいわけです。もうひとつは、肩の筋肉がこりますと、非常に固いんですが、これが民間療法とか、あんまとか、そういうもので、よけい固くなることがあるんです。効かないものですから、これでもかこれでもかというわけで、それが毎日、一種のケガをさせているわけです。ケガをするということは、筋肉の中に出血を起こしているわけで、それが治るときには、センイになってしまいますから、筋肉自体の弾力性がなくなって、レンガみたいに固くなってくる、悪循環ですね。やり過ぎて、かえって壊しているということです。
しかし、面白いもので、そういうこりやすい人でも、好きなことを、生きがいを感じて、一生懸命やっているときは、実際にはこっていても、どんなつらいことでも、ちっとも、こりだとか、そういうことを感じないわけです。イヤなことを他人にさせられたりしますと、状態は同じでも、実際以上に筋肉のこりを、不愉快なものとして感じるわけなんですね。

Q.やるのなら、きつくないほうがいいということですね。

A.そうですね。本人に心地よいということが、一応すべてにあてはまりますね。というのは、私どもよく、これは冷やすのか、温めるのかと聞かれますが、普通は、くじいたとか、そうした直後は冷やしたほうが気持がいい。しかし、これが2・3日しますと、どんどん温めたほうが気持がいいわけです。そして、それが非常に理屈にあっているんですね。ですから、心地よいということが、すべて善になると考えていいのです。

Q.首の骨に異常があると、肩がこりやすいということを聞いたことがありますが・・・

A.ええ、そういうこともありますが、骨の変化というのは、何年もかかって起こってくるわけですから、X線撮影では非常な変化があるのに、本人はまったく気がつかない、ほとんど症状がないという場合もあり、必ずしも同じようではないわけです。
ただ、そういう、骨に変化のある人に、不自然な姿勢をする、あるいは追突事故にあう、病気で長いこと床につくというような、別の要素が加わりますと、普通の人よりは故障を起こしやすいのです。
もう一つは、首から肩にかけて、神様はちょっといじわるをして、弱点をつくってある。というのは、そこで血管や神経が、しめつけられやすい状態になっているわけです。そのあたりは、骨と骨、あるいは骨と筋肉のつき方が複雑で、狭い隙間にも神経や血管が通っていますから、肩下がりだったり、重いリュックサックを背負ったりすると、血管を刺激したり神経をしめつけたりして、肩こりになりやすいのです。
それから、長いこと吊り革につかまるとか、手を上にあげてバンザイばかりしていると、胸の筋肉が引っぱられて血管や神経が圧迫され、肩こりを起こすことがあります。こういうものを、胸郭出口症候群と言います。

Q.そういうときは、肩こりのほかに、神経をしめつけられたために出てくる症状みたいなものはないのですか。

A.ええ、肩こりといっしょに、ムカムカ、吐き気、目がかすむ、耳鳴りがする、それから、のどの奥がくすぐったい、胸がしめつけられる、息が苦しいというような症状が出てくることがありますが、これは、目とか耳とかそういう大切なところにいく自律神経が、刺激されたために出てくる症状なのです。
で、先ほどの、肩こりを起こす首の骨の変化というのは、親指側がしびれてきます。ところが、胸郭出口の神経の圧迫によるものは、むしろ小指側に起こりやすいのです。そこのところを見ますと、これは首の骨が関係しているなとか、これは胸のほうだなということがわかります。

Q.そうしますと、肩こりを治すには、どうしたらいいでしょうか。

A.肩こりを見ておりますと、痛みがあること、筋肉がケイレンを起こすこと、血の循環が悪くなること、この三つがこりの三本柱となって、お互いに関係しているのです。つまり、痛みがあると、動かさないように筋肉に力を入れてしまう。そうすると、血管がしめつけられますから、血の循環が悪くなる。血の循環が悪くなると、それでまた痛みが起こる、という悪循環になるわけです。
そのままにしておくと、ますます悪いほうへいきますから、悪循環を断ち切る方法としては、指圧も効きますし、針とかマッサージも効きますし、温めることも、逆に冷やすことも、血の循環がよくなって、筋肉に酸素もいくようになる。
針の働きというのは、外からの針の刺激をツボのところにもってくることによって、ケイレンを起こした筋肉をゆるめて、、むくみを取ってやるということです。そのツボのことでは、前に実験したことがありますが、ツボに痛みを起こす注射をすると、小指の先とか、頭や胸のような、とんでもない所に痛みを感じることがあるんですね。ですから、実は単純な肩こりなのにもかかわらず、胸に痛みを感じるために、狭心症だと信じこんでいる人もいるわけです。
実はそうでなくて、肩こりのツボに刺激があったということです。逆に、心臓が悪いとまた、ツボのほうに痛みを感じたり、いろいろあるわけです。


―全身を動かしていて肩がこることはない―

Q.体操はどうでしょうか。

A.非常にいいです。私たちの体は、全身を使っているようで意外に全部は使っていないし、それにある特定の動作しかしていないのです。考えても、手を肩の高さより上に上げる動作はあまりしませんね。吊り革につかまるとか、高い棚にあるものを取るときぐらいですから、そういう点を考えて、普段あまり使っていない筋肉を、体操でまんべんなく使うと、全身的な代謝とか、血のめぐりもよくなるし、体の中の疲労物質も追い出してしまうから、精神的にもハツラツとしますし、すべての点でいいですね。
人間は動かないでただじっとしていても、重力に対して体を保つために筋肉が絶えず緊張しているわけです。これを静的な負荷と言いますが、筋肉は使わないためにこるということもあります。
筋肉を使うと、その収縮で、ミルクを搾るときみたいに、血管を絶えずマッサージしているわけですが、使わないと、そういう運動がないわけです。ただ血管をぎゅっと締め付けて、、じっと緊張しているだけです。

Q.ゆるめてやることがない。

A.ええ、ですから実際に肩こりの状態を見ておりますと、全身を動かすような運動をして起こしたという人は、まずいないんです。むしろ運動しないで、事務所で机に向かって仕事ばかりしている、会議で4時間もじっとしていた、あるいはベルトコンベアで動いているのを、一定の姿勢で手先だけでやっているというような、そういう人が多いのです。
ですから、何でもいいからとにかく体を動かしていただきたい、ということです。私たちの体は、1時間同じ姿勢でいると、非常にくたびれるもので、その証拠に、夜寝たときも、覚めたときも仰向けだったといっても、実はその間に、30回は寝返りをうっているわけです。つまり、じっとしていられないということなんです。

Q.そういう運動は、1日にほんのわずかでもいいのですか。

A.そうですね。私自身は、1日に1時間は汗を流して、全部の筋肉を動かすようにしていますが、5分でも10分でも、やらないよりはやった方がいいのです。それよりも、強すぎないようにして、毎日やるということが大切です。

Q.お風呂に入ると肩こりも楽になりますね。

A.お風呂の効果というのは、全身の代謝をよくするというのがいちばんですね。風呂に入ると、まず全身の筋肉がゆるむ、それから血行がよくなって、体のすみずみまで血液が抵抗なく流れますから、疲労物質を流し出してくれるとか、全身的な効果があります。
肩までつからなくても、まわりまわって全身が温まる。全身運動をしていると同じことで、必ずしも目的のところを温める必要はないのです。
ですから、それと逆に、片側から寒い風があたったり、足を冷やしてしまうということが、肩こりにつながることもよくあることです。

Q.うつ病とか、心理的な影響は・・・

A.どうしても治らない肩こりには、うつ病が原因の場合がよくあります。それと、とかく忘れられていることですが、姿勢というのが、筋肉のこりにとても大事ですね。うつ病の人は、たいてい背中を丸くしてふさぎこむ。うつむいておりますから、腕の重さが全部肩にかかって、しかも神経が引っ張られるという状態で、弱いところにますます負担をかけているわけです。
胃の調子が悪い、心臓がドキドキする、あるいは頭が重いというように、体の不調を訴えるうつ病が多いのですが、精神化の病気と思わないで、内科、整形外科などをまわるので、それぞれ違う診断がついてしまうのです。性格的に弱くて、トラブルや苦しみから逃れようとして、もうどうにもならないから病気になったほうが得だと、無意識に病気に逃げてしまうようなこともありますね。ですから精神と肩こりというのは、意外と関係があるし、気づかれないでムダをしていることが多いということです。


―五十肩は痛みを我慢して腕を動かすこと―

Q.肩こりとは違うかもしれませんが、中年すぎの人がよく、五十肩とかいって痛がりますが、あれはどういうことでしょうか。

A.五十肩というのは、特長がありまして、肩が痛くなって動かなくなるのですが、1年かかるか2年かかるかわかりませんけれども、必ずよくなるということです。肩の周りにある腱とか、関節の袋とか、腱鞘とかが炎症を起こしたために、反射的に筋肉がケイレンを起こして、凍りついた状態というのが、五十肩です。
フローズンショルダー、凍結した肩というのはうまい表現で、ですから、凍結したものを温めて、ほぐして、とけてくると動くようになるわけです。原因がさまざまですから、症状にもいろいろあって、ちょっとぎこちないというぐらいですむ人と、寝返りをうつと痛くて、腕のやり場がない状態の人まで、ハバがあるわけです。

Q.そうしますと、どういう治療をするわけですか。

A.実際には、よくご自分で動かしていただくということです。痛い手を我慢できる範囲で使っていただく、具体的な方法はいろいろありますけれど、アイロンのような、多少ずっしりしたものを持って、おじぎした状態で前後に振っていただくといいのです。分銅みたいに振り子にして、その力で動かす。
それから、壁にそって、上の方に指をはわせますと、いやでも手が上がってゆくわけです。お気づきかもしれませんが、五十肩というのは、前からは意外と上がるのですが、首の後に手が届かない、背中に手がいかない、こういう、腕をまわすような動作がしにくいのです。従って、洋服を着たり脱いだり、髪をとかしたり、というようなことが非常につらいわけです。
しかし、不思議なことに、我慢して使っているうちに、そういう状態が、だいたい日常生活に困らない程度にまで治ってしまいます。筋肉が切れていても、他の筋肉がじゅぶん代わりをしてくれます。ここが体のありがたいところです。

Q.こむら返りの痛みはひどいときがありますが、どういうときによく起こすのですか。

A.これは、こりのずっと強い状態で、強直性のケイレンが、ある時間続くということです。年配の人とか、歩き過ぎた後、長いこと立っていた後、寒さにあった後、夜などに多いですね。
収縮しているものをケイレンをとればいいわけですから、筋肉緒をつかんでもいいですし、親指をギュッと曲げなさいとか、いろいろ経験的に、その人に合った方法があると思いますよ。


―肩こりは気にしないことが最良の治療―

Q.肩こりにならないためには、どういうことに気をつけたらいいですか。

A.まず、一時間以上続けて、同じ仕事をしないことですね。一時間たったら、ちょっと運動していただく、それから、その一時間の間も、時々動いていただくといいんです。もうひとつは、腰掛けとか、机の高さとか、字を書くときの姿勢、そういうちょっとした工夫ですね。また、夜寝るときの布団の固さとか、枕の高さなども大切ですね。それから、めがねの度が合わないのをムリしてかけていると、目が疲れて肩こりにつながります。

Q.肩こりは、増えてきているというお話でしたね。

A.ええ、いまは第一、歩かなくなったし、カマドで薪を割ってご飯をたいていたのが、電機釜、ということはしゃがむチャンスもないし、薪を割るような動作もない、それから、洗濯はタライでしゃがんでやっていたものが、いまは電気洗濯機にポンと入れる・・・ですから、昔あった姿勢や動作が、いまはずい分なくなっているんです。それだけに、ある一定のところだけ酷使しているわけですね。それがもう、腰と肩に集中している。それと、精神的にもストレスが非常に強くなっていますから・・・
それと、もうひとつは、まあ逆説的ですけれど、肩こりの人というのは、何とかして治したい、とあせるんですよ。アンマにしろハリにしろ、いいことをみんなやりたい・・・それでなくて、肩こりを楽しむ位の気持でいてほしいですね。

Q.肩こりと共存ですか。

A.ええ、これ、非常にいいんですよ。というのは、いつの間にか治っているわけなんです。ファイトというか、闘うから、よけい意識するんですよ。肩こりとともに生きることです。