自分の足元が見えない

選挙・選挙で、政治家もマスコミも、そして国民というひとかたまりにされた集団も、大さわぎしているが・・米国や世界の大きな動きも含めて、人間の心というものがここにも見えてくるようだ。社会は貧困・格差・差別を置き去りにするかのように、人は上の方ばかり見て、自分の足元は見えていないことにも気づいていないのではないか。

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(社説)衆院選 希望の党 何めざすリセットか 朝日 2017年10月4日
 「日本をリセット」して、何をめざすのか。相変わらず、その核心部分が像を結ばない。

 小池百合子東京都知事率いる「希望の党」が衆院選の公認候補192人を発表した。さらに追加し、最終的に過半数に届く候補を擁立したいという。

 衆院選は「自民・公明」「希望・維新」「立憲民主党共産党など野党共闘勢力」の三つどもえの構図となることが、いっそう鮮明になった。

 小池氏は衆院選での政権奪取に意欲を示す。だが見えてきたのは希望と自民党の対立軸というよりむしろ、近さである。

 たとえば民進党からの合流組に、希望が公認の条件として署名を求めた政策協定書だ。

 民進党が廃止を求めてきた安全保障法制については「適切に運用する」と明記されている。憲法改正については「支持」するとされた。外国人への地方参政権付与には「反対」と右派色の濃い主張も盛られている。

 「社会の分断を包摂する、寛容な改革保守」という党の綱領と、どう整合するのか。

 一方、自民党との明確な対立軸になり得る「原発ゼロ」については協定書に記載がない。

 多くの選挙区でほかの野党との競合が目立つのも疑問だ。非自民でつぶし合うような候補擁立は結果として、安倍政権を利することになる。

 小池氏自身は立候補を否定している。では、選挙後の首相指名投票でだれに投じるのか。党運営をだれが統括するのか。

 誕生したばかりの希望の党の統治能力は未知数だ。政治経験の乏しい候補も多い。選挙結果によっては、実質的に自民党の補完勢力になりはしないか。

 そんな懸念がぬぐえないのは、小池氏が自らの自民党時代の総括をしていないからだ。しがらみを断ち切って、何をするのか。自民党ではなぜできないのかを語るべきだ。

 菅官房長官は「政策に賛同いただくのであれば、しっかり対応していく」と、選挙後の希望との連携に期待を示す。

 希望が政局の主導権を握ったとしても、参院は自公が圧倒的な議席を占める。希望と自公が手を組むシナリオが早くも自民党内でささやかれている。

 今回の衆院選は、おごりと緩みが見える「安倍1強」の5年間への審判と、次の4年をだれに託すかの選択である。

 「安倍政治」をどう評価し、どこを変えるのか。

 まずそこを明確に説明することこそ、全国規模で候補を擁立し、政権選択選挙に挑む政党の最低限の責任ではないか。


(問う 2017衆院選)財政軽視、「未来」の切り売り 朝日 2017年10月4日
 安倍晋三首相が三たび消費税で民意を問う。過去2回は増税延期を、今回は増税はするものの、生んだ財源は財政赤字を減らすのでなく教育無償化などにすぐ使ってしまおうと訴える。

 これまで同様、ここで首相が求めるのは痛みの受容ではない。痛みを先送りし給付を手厚くするという易(やす)き選択肢への賛意だ。これはログイン前の続き結局、私たちの「未来」の切り売りではないか。

 この種の国民受けする政策はふつうなら、やりたくとも財源がない。そのジレンマを一挙解消する魔法の杖がアベノミクスだった。

 安倍政権は、日本銀行に超金融緩和の一環として大量の国債を買わせている。おかげで政府がいくら借金を重ね、首相がいくら増税を延期しても、国債価格は急落しない。日銀が紙幣を刷って政府の赤字をまかなう「財政ファイナンス」は財政法で禁じられているがそれに限りなく近い。

 現実には本物の魔法の杖はない。この杖も永久に使い続けることはできない。後の世代へのツケがどんどん膨らんでいくだけだ。

 戦前も政府は軍費調達のため財政ファイナンスに手を染めた。終戦直後、国民は預金封鎖や重課税、超インフレに苦しめられた。敗戦だからそうなったのではない。財政ファイナンスでごまかしてきた財政破綻(はたん)が敗戦で表面化しただけだ。

 終戦の1945年の政府債務は国内総生産比200%超だった。いまは230%と当時よりひどい。主要国でも最悪の水準だ。

 借金膨張を止められなかったのは歴代政権の責任だが、どの政権も危機感はあった。それが結実したのが5年前、消費税率10%への増税を決めた3党合意だ。

 その成果を安倍政権は増税延期でいとも簡単にほごにした。そして再び借金を膨張させようというのだ。

 いまや首相の手法は世界で高まるポピュリズムのお手本のようだ。先の仏大統領選で極右政党のルペン候補が「中央銀行を政府の傘下に置き財政ファイナンスをする」と訴えていた。

 希望の党小池百合子代表と立憲民主党枝野幸男代表は消費増税の凍結で対抗する。政治がこれほど財政危機の現実を軽んじ、国家安定を危うくしたことが、戦後あっただろうか。

 財政がいちど傾いたら私たちの生活は脅かされ、子や孫の未来は悲惨なものになる。立て直すのは数十年がかりだ。だから百年の計が求められる。時の政権が延命のために「未来」を切り売りすることなど許されていいはずがない。

 (編集委員・原真人)