「ひとりごと・健康通信」をふりかえって (16) 2021/5/9  「腹横筋 腰痛ひざ痛解消法」

「ひとりごと・健康通信」をふりかえって (16) 2021/5/9  「腹横筋 腰痛ひざ痛解消法」

もう10年も前から、数人の人に「ひとりごと・健康通信」などというのを書いてきたが、そんな記事を振り返りながら、この10年で健康に対する考えや生活がどう変わってきたか・・書いたものを整理したり、付け加えたりしながら書いています。

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「夏をどうのりきるか」 2012年8月28日


今年の夏も暑い日が続いて雨もほとんど降らず、近くの川は乾ききって草が生い茂っています。
熱中症・夏バテをどう乗りきって、秋の季節変化にどう対応するかというのは私にとっての課題です。

以前にも書きましたように、東洋医学の考えでは・・過剰な「冷飲食」は、胃腸の働き・水分代謝を低下させて、長い間に体内のサラサラな水をドロドロの「湿熱」に変えてしまい、私のような高血圧・痛風はそう簡単には消えないようです。
糖尿病、高脂血症、慢性関節リウマチ、胆石や腎結石、心筋梗塞動脈硬化症、脳卒中・・などの危険性にもつながります。

それでも、真夏は冷蔵庫の水を日に2・3回は飲みますが、口の中でころがすようにして温めながら味わって、ゆっくり飲むようにしています。今年はよくキュウリをかじって、水分の補給にあてていますが、これなら胃腸を冷やさないでゆっくり体内の熱を取ってくれます。

私が東洋医学に関心を持ち始めたのは、もう20年近く前のことですが、難しい「東洋医学中国医学・漢方」をわかりやすく説明する小高修司の新書本にその頃出あいました。
小高クリニックのWeb記事に「夏の養生法」が出てきて、西洋医学とちがう考え方を理解することもできますので、少し長くなりますが載せてみました。


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「秋の中国漢方活用術」夏バテ 叢 法滋(そう ほうじ)・・東西薬局(店頭)月刊誌
より・・

夏バテ
この季節、「夏バテで食欲がない…。だるい…」という人が多いと思います。夏バテは疲れやすい、めまい、食欲不振、下痢など様々な症状がありますが、大もとの原因は暑さと湿気によるもの。気温30度、湿度50%を超えるとこうした症状が増えてきます。そこで中医学の見地から夏バテを考えてみましょう。

〈 暑 〉
人体は体温の上昇を避けるため、いろいろな働きで体温を調節します。まずひとつは汗をかくこと。人間は一時間に0.5~4リットルの汗をかくといいますが、汗にはタンパク質、ミネラル、ビタミン等の成分が含まれるので、体が消耗するとともに気(エネルギー)も一緒に漏れて体力が衰えてしまいます。この状態を中国では陰虚といい、発汗することを陰傷《陰(体液)を傷つける》といいます。
そして二つ目は体内から生まれる熱を抑制すること。交感神経の働きで新陳代謝を抑制し、ホルモンの分泌を減らして熱の発生を抑えます。しかし体はエネルギー不足に陥るため、この状態を気虚といいます。
三つ目は体内の水分を保つこと。汗として出てしまう水分を守るため、体の保護反応が働き、ホルモンの調整で尿の量が減ります。
以上の働きで起こる症状のうち陰虚気虚の組み合わさったものを「気陰両虚」といい、夏バテのほとんどの人がこの状態なのです。

〈 湿 〉
人体にとって外気の湿気(外湿)が多すぎると、体調を崩す原因となります。またビール等の冷たいものを飲んだり、食べ過ぎると脾胃(消化器系)の働きが低下し、湿気を溜め込む(内湿)こととなります。通常なら、胃に入った水分は脾に吸収され、肺に運ばれて全身を潤し、一部は汗となり、やがて尿となって体外に排出されますが、胃は冷たいものを欲しがり、脾は温かいものを欲しがる傾向があるため、胃を冷やすと脾までもがダメージを受け、悪循環となり、水分代謝の悪化で体内、特に下部に湿気が溜まります。こうして体に湿気が溜まることにより、夏バテになりますが、湿熱(湿気が溜まることで熱を帯びる)タイプ、寒湿(虚弱体質)タイプで症状も変わってきます。

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様々な病気と漢方  http://www.ne.jp/asahi/haru/kenshoudou/kiji21natubate.htm

夏ばてと漢方

天気予報で、今年の夏は陽性の夏と表現ざされていました。
かなり暑い夏ということですね。この記事を書いているのは大体1ヶ月前の7月の上旬なんですが、確かに、すでに梅雨は明けたかのように連日33度、34度を記録しています。
こういう暑い季節になると、ついつい失敗してしまうのが冷飲食の過多です。冷たいお茶、ジュースやアイスクリームなどの冷たいお菓子につい手が伸びます。ビールのお好きな方にはたまらない季節でもあります。

しかし、この冷飲食の過多により、胃腸は消化に必要な体温を失い、機能低下を起こしてしまう結果になります。
胃腸にはとりすぎた水分が停滞し、消化力も落ち、食欲不振や吐き気が生じたり、あるいは余分な水分を下痢という形で排出することになります。こういう具合になりますと、本来の漢方で言うところの脾・胃(ひ・い:現代医学の胃腸と考えます)の働きが十分出来なくなります。
脾胃は口から入ってきた飲食物の消化、そして得られる栄養物を全身に巡らします。脾は肌肉(きにく:筋肉、とくに四肢の筋肉)をつかさどると言います。栄養が十分にめぐってこそ、手足は十分に力が入り動かすことが出来るのです。

夏ばて状態で、胃腸が疲れると、手足がだるく力が入らなくなるのは上のような理由からです。

もちろん、漢方薬に有効な手立てがあります。でもその前に飲食の節制をいたしましょう。

夏こそ温かいものを食べるようにしてみませんか?
そのときには、多少一緒に冷たいビールを飲んでも大丈夫ですよ。温かい食べ物の中には、香辛料たっぷりなものも含まれます。夏の定番の香辛料といえば、冷奴に「しょうが」や「ねぎ」をたっぷり使います。そういう香りの強い野菜がいいです。
時にはカレーなどのインド系の香辛料も良いですね。あの酷暑のインドで、なぜあのような強烈な辛さを持つカレーが食べられているのか?

それに比べて寒い国のイギリスでは、なぜインドから持ち帰った超辛いカレーを、次第にマイルドな辛さのカレーにしていったのか、その理由を考えてみると面白いかと思います。
当然暑い国と、寒い国との違いがそこに現れています。

逆の働きで、食べることで身体に停滞した湿気と熱を処理してくれる(暑気払い)食べ物は、きゅうり、なすなどの夏野菜、そしてスイカですね。スイカにはお塩をパラパラと振りかけて食べましょう。天からの贈り物です。


夏バテの予防と対策

夏バテ、いわゆる暑さ負けは、本来長夏(夏と秋の間の暑い時期)によく見られる季節病と言えます。湿気の多い地域、虚弱体質(胃腸虚弱)で慢性病のある人がかかりやすいものです。

症状としては、

『頭痛・身体が重い・だるい・口渇・汗がよくでる・食欲不振・軟便(泥状便)や下痢でしかもすっきりしない・尿量減少・舌の苔が厚くジトジトした感じになる。』
などですが、経験したことのある人はわかりますが、普通の疲れより一段と身体が重くつらいものです。

この原因は暑邪(漢方では風・寒・暑・湿・燥・火の六つの自然状況も病因になれば邪と呼びます。)が胃腸の機能を傷つけて、湿気が身体に停滞して湿邪も兼ねたものになっています。

大体はこのタイプで現れますが、最近はクーラーで身体を冷やしすぎたり、冷飲食の過多で夏なのに冷えの症状の風邪のような状態で現れる場合もあります。これらは昔と違い、クーラーや冷蔵庫という文明の利器の発達で起こってきたものと言えます。
暑いからといって、過度にお腹を冷やす行為はつつしまなければなりません。

ともに、適切な漢方薬を服用し、涼しい所で過ごし、過労を避け、休養と睡眠を十分に取り、消化の良いものを食べ、油物は避けます。

胃腸が弱っていない人で、当然下痢や泥状便でない人は、スイカやトマトなどもよい食べ物になります。特にスイカは夏を代表する食べ物で、寒性で甘味が強い。清熱解毒、止渇、利尿降圧の効があり、夏バテ、のどの渇きによい。またスイカの皮は利尿効果も高いので捨てずにお漬け物にしたりして利用すればおいしくいただけます。

暑邪による病気でも、『高熱・頭痛・激しい口渇・甚だしい発汗あるいは無汗・顔が真っ赤・意識障害・けいれん』などの症状は日射病・熱射病に相当するもので、うつ熱および脱水症状を起こし、危険な状態ですので救急で病院にいかなければなりません。炎天下や特別暑い場所での仕事や遊びで起こったりします。幅広い帽子をかぶり、スポーツ飲料の補給が予防になります。

◎最後に夏バテ予防のレシピを一つ。

新鮮な蓮の葉(なければ乾燥品)、竹葉、薄荷各30g水2リットルで10分煎じ、カスをすて蜂蜜で甘みを調整してお茶がわりに飲むと暑気払いにうってつけです。
                                 

〈初秋〉朝夕の〝冷え〟が負担に 「春夏秋冬」から
初秋の朝夕の冷えと乾燥は、呼吸系の弱い人には負担となる。皮膚が異常に過敏になっているので、朝夕の冷えによってすぐ皮膚は閉じ、同時に皮膚呼吸も減る。その分の負担が鼻や気管にかかることになり、風邪をひきやすくなったり、鼻炎症を起こしたり、咳や喘息も起こす。
一般に咽喉の症状の現れる場合、それは突然ではなく、2~3日、朝起き抜けに口や咽喉が乾燥するという状態が続くものである。そういう状態のうちなら、梨のジュースや大根おろしのしぼり汁を飲むことによって、未病を治すことができる。本格的に咽痛が起きた場合は、銀翹散や駆風解毒湯を用いるとよい。
鼻炎の場合は、冷えた空気が直接鼻に入って、鼻粘膜が充血して起こる場合と、首や肩、特に肩甲間部が冷えて肺系統全部が緊張することによって起こる場合とがある。この場合でも、軽い時は朝夕の温度の下がった時にマスクをしたり、チョッキを一枚着るか、タオルを首に巻くことによって、かなり予防することができる。
また、春先の鼻炎と秋口の鼻炎とは、症状は似ていても原因は全く異なるし、進む方向も違うので、注意が必要である。春先の場合は肝機能の乱れと体表の?血が主な原因で、それに杉花粉や排気ガスなどが鼻粘膜を刺激することによって発生する。しかし秋口の場合、鼻 → 咽喉 → 気管と直通しているので、鼻炎も、ひどくなれば気管から肺系
の奥にまで影響が及んで、咳がひどくなったり、喘息様の症状を呈することもある。

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* 東洋医学の健康相談をしているMさんのメールから・・

「秋・脾の機能低下・肺の乾燥」  八王子東西薬局 M通信  2008/09/17 

まず、この季節の鼻の症状の対処法としては、引用されている春夏秋冬と同様に
「梨のジュースや大根おろしのしぼり汁を飲む」というのはお勧めです。
その他に冷え対策として食事の中に唐辛子やしょうがを少しだけ辛味がでるくらい、入れてみてはいかがでしょう?
あとは寝ているときや朝晩の冷えに負けないように、
上着を一枚羽織るなどしてください。

初秋はジメジメしてた夏が終わり、逆に乾燥する季節です。
それと共に夏の疲れがでてくる季節でもあります。
その症状は脾と肺にでやすいです。

脾は夏の暑さで冷たいものを摂るため6月~初秋くらいまで冷やされることが多くなります。
冷やされた脾は働きが悪くなります。そうなると気、血、津液の流れが悪くなります。

特に津液は液体なので重力の影響受けて下半身のほうに動くのが自然の摂理です。
脾の運化作用で重力に負けず全身を廻っていたはずが、脾の働きが弱くなったので下半身がむくみ易くなります。
もちろん流れが悪くなるので、摂取した水分も排泄されず体内に留まり易くなります。

胃腸を温めて脾の機能を取り戻しましょう。

身体の内側には夏に溜まった水分がありますが、身体の表面にどうでしょう?
表面で外気に触れるのは肺系統になります。
肺はとても乾燥に弱い臓器です。秋冬の乾燥は体内に水分があっても肺を乾燥させます。

もちろん肺系統である鼻、咽頭、気道、気管支、皮膚なども乾燥します。
簡単に言えば空気中の異物(外邪)に対する防御機構の低下です。
外気から身体を守っている粘膜が薄くなり、花粉や風邪ウイルスや細菌が粘膜より体内に入りやすくなってきます。
そうなると身体の内側から異物を排除する為に、白血球などの免疫反応が起こります。

外邪と戦っている反応が鼻汁や咽頭痛です。

対処法としては一番最初に書いたとおりです。
旬の食べ物はその季節の症状の予防に繋がったりします。
(例えばきのこ類の旬はこれからですが、体内の水分のバランスを整えてくれます。)


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養生法 〈小高修司〉から http://www.kotaka-clinic.com/ippan1-1.php?no=3

健康な心身を保つにはどのようなことに気をつければよいのか、特に夏をどのように過ごせばよいのかは重要です。日本の夏は暑いだけでなく湿度も高く生活しにくい季節といえますが、かといって四季から夏を除いては正常な発育ができないのは全ての生物に共通した事実です。

これから中国医学のもっとも古く重要な書物である《黄帝内経》を参考にしながら先人の知恵を学ぶことにしましょう。

「夏は天地の気が交わり、万物が花開き実る。」時季であり、「夜はやや遅くに寝て、朝は早めに起きる」のがよい。そしてもっとも大事なことは「体内の陽気を外に向かって開き通じ発散できるようにする」ことです。これを守らないと「心」が傷つき、「秋に瘧という病気になる。」と云います。また別の箇所の記述では「夏に汗をかかないと、秋に風瘧となる」とか、「夏に暑さに傷られると、秋に瘧となる」、また「夏の大暑に傷られ、大汗をかき”そう理”が開いているとき、夏にふさわしくない寒さ(夏気凄滄之水寒)にあうと、この寒邪が皮膚と”そう理”の中に潜んでしまい、秋に風に傷られて瘧を起こす」というのもあります。

説明してみましょう。我々はややもすると外出したりテレビを見たりなどで、夜更かしをし朝がちゃんと起きられないといった生活になりがちです。基本的には太陽にあわせて生活すべきですので、他の季節に比べれば夏は遅寝早起きにすべきというわけです。それにしても今の若者の生活を聞くと、たいして用もないのに遅くまで起きているのにおどろかされます。朝は学校がありますから結局睡眠時間が短くなり、授業中に居眠りなどといったことになりがちです。

「体内の・・・」はどういうことでしょうか。適度な運動などにより気の流れを良くし、汗をかき、陽気が体内にこもらないようにする必要があるということです。夏はどうしてもちょっと動けば汗をかきます。気温が高く身体が熱を持ちやすくなりますから、発汗することで熱を逃がしているわけです。そのため夏には汗腺(中国医学では”そう理”といいます)が開きがちになっています。”そう理”が開いていることは逆に外邪が進入しやすくなっているというマイナス面を忘れてはなりません。つまりクーラーがきいていて夏にそぐわない風寒邪がたくさんある環境では、容易にこの風寒邪が”そう理”から侵入してしまいます。暑い外からクーラーのきいている室内に入るとホッとするのは事実ですが、実は汗をかくために思いっきり開いている”そう理”から、一気に風寒邪が侵入する絶好のチャンスを与えていることになるのです。

風寒邪というのは風邪と寒邪がくっついたものです。これらの外邪が入ることで、カゼを引いたり、関節の痛みを起こしたり、お腹が痛くなったり下痢をしたりと実に様々な症状を引き起こします。ところで風邪と書いてみなさんはカゼと読まれてはいませんか? 「カゼは万病のもと」と云いますが、これは風邪が寒邪や湿邪など他の外邪と
容易に結びつき、病気をひどくさせることから生まれた言葉で、「風邪は万病のもと」と云うべきなのに、いつの間にか誤り伝えられるようになったようです。

冬にも暖房のきいた室内から寒い戸外へと移動することはあっても、”そう理”はどちらかというとあまり開いていませんので、夏ほど外邪の侵入が容易でないことは十分おわかりいただけると思います。古代社会では全く想像もできなかった、夏に寒邪を受けるという事態が現代では当たり前になってしまっているのです。

従って室内外の温度差を少なく、極端に冷房温度を下げずに、せいぜい除湿送風程度にしておいた方が身体のためです。何より適度に汗をかき陽気を発散させることが大事なのですから。もしこれを守らないと、秋になってから瘧と呼ばれる病気を起こしやすくなります。瘧とはおこりのことで、寒けと熱が交互にあらわれる症状で、今ではマラリアなど何らかの病原菌による感染症が疑われる症状に相当します。

先ほどの古典の文章をもう一度ご覧下さい。”そう理”を開き体内の陽気を外に向かい発散させることが大事と説く一方で、大暑のあまり汗をかきすぎることも戒めています。これは汗をどのように考えているかを説明する必要があります。汗は津液に属します。人体を作っている物質を気・血・津液と呼びます。我々が普段考えている血液はここでいう血と津液が合わさったものですが、体内を流れている状態での血液には気が含まれています。気の持っているエネルギーで血液は全身を巡っていると考えています。ですから体外に取り出された血液には気が含まれず循環することもないわけです。血と津液は仲間ですから、極端な言い方をすれば、汗を流すことは血を流すことと同じなのです。乳も血の仲間ですから、授乳することは子供に自分の血をあげているのと同じことです。十分に血がなければ授乳することで体力がますます失われますし、十分な血がなければ乳が出ないともいえます。大汗をかくことは必ずしも勧められないことがおわかりいただけたでしょうか。過激な運動を続けたために、後年大きな病気になる例は多いのです。もちろん適度な運動は必要ですが、発汗には十分配慮すべきです。サウナで汗を流すことは血を流すと考えるべきで、単に水分が失われたと考え、ビールでのどを潤せばよいと考えるのはとんでもないことです。

ついでですから運動後などにスポーツドリンクやビールでのどを潤す人は多いと思いますが、一体何人の人が冷たいものは飲まない、ゆっくりかむように飲むということに配慮しているでしょうか。「冷飲傷胃」「冷飲傷肺」という古典の言葉をかみしめる必要があります。胃と肺を介して、つまり消化と呼吸により我々は気・血・津液を作っています。習慣的に冷飲食をすれば胃と肺の働きは低下し、十分な気・血・津液を作れなくなります。これは免疫力の低下につながり、健康を保てないことになります。

現代医学では身体を冷やすとか暖める、冷え性や火照り症などに関する検討はほとんどされていません。せいぜい自律神経の異常でしょうといわれるのが落ちだと思います。従って冷飲食やクーラーなどで身体(特に消化器と呼吸器ですが)を冷やすということに関する研究はほとんどありません。

しかし生命力の根本、別の言い方をしますと老化に関わる機能を、中国医学では「腎」と呼び、特にその原子炉が体内にあるごとく身体を芯から温める働きは、消化器や呼吸器の働きを高める上でどうしても必要なものなのです。消化吸収や呼吸を介して得られたエネルギー(これが気ですが)は腎の働きを正常に保つ上で必要なものです。つまり腎と肺と胃(脾)は相互に助け合い身体を正常に保っているのです。これらの臓腑が冷やされてしまえば正常に働かなくなり、結局健康を損なうことになるのです。電気冷蔵庫がどこの家庭にもあり、食品を保存する上でなくてはならないものではあるのですが、そのために冷飲食の機会が増え病気になる危険を増しているということに皆がもっと注意しなければ、人類の将来は暗澹たるものになるでしょう。

先程述べた身体の芯を温める働きを持つものを「腎」の中でも特に「腎陽」と呼びます。これはまた「命門の火」とも呼ばれ、他の臓腑を温め正常に働くようにするとともに、直接的には視床下部と呼ばれる脳の深部にあるホルモン系の一番上の命令センターの働きに関わっています。このホルモンサイクルに含まれるものは甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンとともに性ホルモンがあります。いずれも生命維持の上で重要な働きをしているホルモンで、いずれが欠けても大変な病気になります。

例えば性ホルモンを考えてみましょう。最近の若者たちはセックスレスの共同生活だとか、環境ホルモンのせいで性器が小さく、また精子の数も少なくなっているといわれたり、若年性のインポが増えたりと性機能の低下が指摘されることが多いように思われます。確かに環境ホルモンなどの影響も考える必要がありますが、本当はそれ以上に冷飲食やクーラーのかけすぎ、伊達の薄着などにより身体を冷やす機会が多く、腎陽(命門の火)の力が落ちていることがその大きな原因であることを真剣に考えるべきなのだと思います。健康な次世代の子供を作ることがなければ民族のひいては人類の未来は暗いからです。冷飲食やクーラーなど身体を冷やす機会がむしろ多い夏にこそ、冷え取りを真剣に考えるべきであり、逆に言えば夏こそ冷え取りの重要性が増す時季なのです。

古典をもう一度みましょう。「夏は心を主る」といいます。心とは血液循環をしている心臓の働きと、「こころ」としての働きの両方の意味を含みます。後者には睡眠なども関わり、たとえば心の血が不足すると夜中に目覚めた後しばらく眠れなくなったり、嫌な夢を見たりといった症状が現れます。もちろん心臓の働きに関する動悸や不整脈が出たりすることもあります。

先ほど汗は血の仲間といったのを思い出して下さい。夏には汗をかくことが多く、それがあまりに多いと結局多くの血が失われたと同じことになり、上にあげた症状が出やすくなります。夏にはこういった症状が出やすいということです。「心の病は夜間に激しくなる」とも書かれています。事実狭心症なども夜間に発作が起きやすいことは良く知られていますし、睡眠に関連する症状が夜間多いのは当然でしょう。

次に身体に冷えがあるかどうかの見分け方です。自覚的に冷えを感じるかどうかも目安にはなりますが、注意すべき点がいくつかあります。手足の指先の冷えは、冬に白くなったり赤黒くなったりするいわゆるレイノー症状が無い場合は、よく言われるように血の流れが悪いのではなく気の流れが悪いためです。身体の芯の冷え、つまり腎陽(命門の火)の不足も何らかの影響はあるでしょうが、直接的には気が指先までちゃんと流れないために起こっています。つまり量の不足より気の循環が悪いことが原因なのです。

一般に腎陽が不足した場合の冷えは腰回りから下半身全体の冷えとして感じる場合が多いようです。但しこの腎陽の不足が甚だしくなった場合、矛盾するようですが逆に頭部や皮膚に熱が浮いて、のぼせや皮膚炎などが見られ、熱を持っているかのような状態になることがあります。これは病気の最終段階に見られる「戴陽」とか「格陽」と呼ばれるような特殊な状況に類似していますが、近年の日本人は冷飲食が多く冷え切っているので、このような珍しい状態に似た症状を表す人が多くなっています。

中国医学の診察で、冷えがあるかどうかは舌を診て決めます。舌の表面には苔がついて本来の舌の色が見分けにくいので、必ず裏を診る必要があります。基本的には舌裏の色の赤みが薄いほど冷えが強いことになります。更に赤みの少なさにどす黒さが加わった場合は、血の汚れが著しいことを表します。こういったときは舌の縁に内出血したような染みがあったり、舌裏の八の字型の静脈がくっきりわかることが多いのです。寒いところでは川も氷るように、身体の冷えが強ければ気のみならず血や津液の流れも悪くなり、こういった血の汚れが目立つようになります。この汚れを「お血」と呼びますが、お血は心筋梗塞、脳血栓脳梗塞などの血管系の病気のみならず、ガンの大きな原因でもあります。つまり現代日本人の3大死因であるガン、心臓病、脳血管障害の全てにお血は重要な関わりを持っていることになり、その原因として冷えが大きく関わっているのです。

では最後に冷えを減らすにはどうしたらよいかを考えてみましょう。

冷えの程度が強く、急いで治す必要があるような場合は、薬(温陽薬など)を使うことも考えるべきでしょうが、緊急性が少ない場合は、日常生活の中で徐々に治していくようにします。このように日常生活の改善によって治せる段階にある身体の異常状態を「未病」と呼びます。未だ完全に病気にはなっていないという意味です。

日常生活の中で最も重要なのは食事です。冷飲食をしないというのは鉄則ですが、ここでいう「冷」とは冷蔵庫で冷えているという意味は勿論、その食品が持っている性質をいいます。昔から「柿は冷える」とか「秋茄子は嫁に食わすな」とかいろいろな言い伝えがありますが、いずれも身体を冷やすことへの警鐘なのです。それぞれの食品が冷やすのか、暖めるのか、どちらでもないのかは決まっています。詳しくは専門の方の説明を聞いていただきたいと思いますが、ただ一言いっておきましょう。夏に大きく関わる臓腑は心ですが、心を十分に働かせるためには苦みのある食品が必要です。そして多くの苦みのある食品は身体を冷やす作用があります。それは夏の暑さのために身体が火照り内熱をもっていることが多く、その熱を除くために身体を冷やすことも必要だからです。しかし例えば夏の苦い食品の代表ともいえる苦瓜を食べるさい、本場の沖縄では普通炒め物として熱を加えて食べます。海草類も身体を冷やしますが多くは酢の物やみそ汁、炒め物など必ず調理して食べています。つまり和食や中華料理は長年の知恵として身体を冷やす物でも、そのまま加工せずに食べることはなく、調理することでその性質を和らげる工夫をしてきました。野菜は原則として温野菜がよいのですが、サラダとしてトマト、レタス、キュウリなど夏が旬の食品が露地物として食べられる時期のみ、極端に冷蔵庫で冷やさなければ食べても良いと思います。

結局どういうことかといいますと、全て「過ぎたるは及ばざるが如し」ということでしょう。グラスまでがんがんに冷やし、4-5度に冷えたビールを空きっ腹で一気のみ、確かに夏の醍醐味かもしれませんが、たった一杯の享楽のために、肺と胃は冷やされ働きを停止し、その後の食事はほとんど吸収されないままに素通りしていることでしょう。ドイツなどビールの有名な産地ではビールを飲む温度はだいたい14-15度で、日本ほど冷やしていないのは、やはり生活の知恵だと思います。そもそも普段から冷飲食をしないようにしていると、まれに夏の暑さにたまりかねて思わず冷たいビールを一杯やるくらいで、その晩は腹痛と下痢に苦しみ辛い思いをしたというのは、うちの患者さんではよく聞く話です。もし皆さんが「へェー、俺は別に何ともないけどね」という感想を持たれたとしたら、それは腹が冷えきってしまい、気・血・津液の流れが悪く鈍感になっているからです。よく今まで医者になぞかかったことがない人が、どうも調子がおかしいと思い医者に行ったときは、末期ガンで手遅れ、後数ヶ月の命ですなどと宣告されたという話を聞きますし、実際そういう患者さんが当院には大勢来られますが、まずほとんどの患者さんの腹は冷たく、しかも硬くガチガチ、それでいて腹が張って苦しいとも何とも思わないという状態で、いかにも気・血・津液が流れていないという所見です。

さて話があちこち行ってしまいますが、身体を温める食品はおおむね辛い物です。ただ香辛料も激辛食品大好きなどと言っていつも食べていると、逆に胃に熱を作り具合が悪くなるので、適当に使うこと。こういった辛みのある物を臍に入れると身体が芯から暖まりますので、軟膏や湿布にするなどしてうまく使うと重宝します。